きわらす》はふと、風にけされて泣いているさっきの子供の声をききました。
雪童子の瞳《ひとみ》はちょっとおかしく燃えました。しばらくたちどまって考えていましたがいきなり烈《はげ》しく鞭をふってそっちへ走ったのです。
けれどもそれは方角がちがっていたらしく雪童子はずうっと南の方の黒い松山にぶっつかりました。雪童子は革むちをわきにはさんで耳をすましました。
「ひゅう、ひゅう、なまけちゃ承知しないよ。降らすんだよ、降らすんだよ。さあ、ひゅう。今日は水仙月の四日だよ。ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅうひゅう。」
そんなはげしい風や雪の声の間からすきとおるような泣声がちらっとまた聞えてきました。雪童子はまっすぐにそっちへかけて行きました。雪婆んごのふりみだした髪が、その顔に気みわるくさわりました。峠《とうげ》の雪の中に、赤い毛布《けっと》をかぶったさっきの子が、風にかこまれて、もう足を雪から抜《ぬ》けなくなってよろよろ倒《たお》れ、雪に手をついて、起きあがろうとして泣いていたのです。
「毛布をかぶって、うつ向けになっておいで。毛布をかぶって、うつむけになっておいで。ひゅう。」雪童子は走りながら叫
前へ
次へ
全14ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング