どりぎをもっていた。」雪童子はつぶやいて、ちょっと泣くようにしました。
「さあ、しっかり、今日は夜の二時までやすみなしだよ。ここらは水仙月《すいせんづき》の四日なんだから、やすんじゃいけない。さあ、降らしておくれ。ひゅう、ひゅうひゅう、ひゅひゅう。」
 雪婆んごはまた遠くの風の中で叫《さけ》びました。
 そして、風と雪と、ぼさぼさの灰のような雲のなかで、ほんとうに日は暮れ雪は夜じゅう降って降って降ったのです。やっと夜明けに近いころ、雪婆んごはも一度、南から北へまっすぐに馳《は》せながら云《い》いました。
「さあ、もうそろそろやすんでいいよ。あたしはこれからまた海の方へ行くからね、だれもついて来ないでいいよ。ゆっくりやすんでこの次の仕度《したく》をして置いておくれ。ああまあいいあんばいだった。水仙月の四日がうまく済んで。」
 その眼は闇《やみ》のなかでおかしく青く光り、ばさばさの髪《かみ》を渦巻かせ口をびくびくしながら、東の方へかけて行きました。
 野はらも丘《おか》もほっとしたようになって、雪は青じろくひかりました。空もいつかすっかり霽《は》れて、桔梗《ききょう》いろの天球には、いちめ
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