。ひゆう、ひゆうひゆう、ひゆひゆう。」
 雪婆んごはまた遠くの風の中で叫びました。
 そして、風と雪と、ぼさぼさの灰のやうな雲のなかで、ほんたうに日は暮れ雪は夜ぢゆう降つて降つて降つたのです。やつと夜明けに近いころ、雪婆んごはも一度、南から北へまつすぐに馳《は》せながら云ひました。
「さあ、もうそろそろやすんでいゝよ。あたしはこれからまた海の方へ行くからね、だれもついて来ないでいいよ。ゆつくりやすんでこの次の仕度をして置いておくれ。ああまあいいあんばいだつた。水仙月の四日がうまく済んで。」
 その眼は闇《やみ》のなかでをかしく青く光り、ばさばさの髪を渦巻かせ口をびくびくしながら、東の方へかけて行きました。
 野はらも丘もほつとしたやうになつて、雪は青じろくひかりました。空もいつかすつかり霽《は》れて、桔梗《ききやう》いろの天球には、いちめんの星座がまたたきました。
 雪童子らは、めいめい自分の狼《おいの》をつれて、はじめてお互|挨拶《あいさつ》しました。
「ずゐぶんひどかつたね。」
「ああ、」
「こんどはいつ会ふだらう。」
「いつだらうねえ、しかし今年中に、もう二へんぐらゐのもんだらう
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