木《にはとこ》が咲いて
鬼ぐるみにもさはぐるみにも
青だの緑金だの
まばゆい巨きな房がかかった


そらでは春の爆鳴銀が
甘ったるいアルカリイオンを放散し
鷺やいろいろな鳥の紐が
ぎゅっぎゅっ乱れて通ってゆく


ぼんやりけぶる紫雲英の花簇と
茂らうとして
まづ赭く灼けた芽をだす桂の木
[#改ページ]

  三四五
[#地付き]一九二五、五、三一、

Largo や青い雲|※[#「さんずい+鶲のへん」、第4水準2−79−5]《かげ》やながれ
くゎりんの花もぼそぼそ暗く燃えたつころ
   延びあがるものあやしく曲り惑むもの
   あるいは青い蘿をまとふもの
風が苗代の緑の氈と
はんの木の葉にささやけば
馬は水けむりをひからせ
こどもはマオリの呪神のやうに
小手をかざしてはねあがる
   ……あまずっぱい風の脚
     あまずっぱい風の呪言……
くゎくこうひとつ啼きやめば
遠くではまたべつのくゎくこう
   ……畦はたびらこきむぽうげ
     また田植花くすんで赭いすいばの穂……
つかれ切っては泥を一種の飴ともおもひ
水をぬるんだ汁ともおもひ
またたくさんの銅のラムプが
畔で燃えるとか
前へ 次へ
全106ページ中89ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング