んがへながら
またひとまはりひとまはり
鉛のいろの代を掻く
   ……たてがみを
     白い夕陽にみだす馬
     その親に肖たうなじを垂れて
     しばらく畦の草食ふ馬……
檜葉かげろへば
赤楊の木鋼のかゞみを吊し
こどもはこんどは悟空を気取り
黒い衣裳の両手をひろげ
またひとしきり燐酸をまく
   ……ひらめくひらめく水けむり
     はるかに遷る風の裾……
湿って桐の花が咲き
そらの玉髄しづかに焦げて盛りあがる
[#改ページ]

  三五〇  図案下書
[#地付き]一九二五、六、八、

高原《はら》の上から地平線まで
あをあをとそらはぬぐはれ
ごりごり黒い樹の骨傘は
そこいっぱいに
藍燈と瓔珞を吊る

  〔Ich bin der Juni, der Ju:ngste.〕

小さな億千のアネモネの旌は
野原いちめん
つやつやひかって風に流れ
葡萄酒いろのつりがねは
かすかにりんりんふるへてゐる

漆づくりの熊蟻どもは
黒いポールをかざしたり
キチンの斧を鳴らしたり
せはしく夏の演習をやる

白い二疋の磁製の鳥が
ごくぎこちなく飛んできて
いきなり宙にならんで停り
がち
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