黝んで赤い粟の稈
    ……はたけのへりでは
      麻の油緑も一れつ燃える……
  ※[#始め二重括弧、1−2−54]デデッポッポ
   デデッポッポ※[#終わり二重括弧、1−2−55]
    ……こっちでべつのこどもらが
      みちに板など持ちだして
      とびこえながらうたってゐる……
はたけの方のこどもらは
もう風や夕陽の遠くへ行ってしまった
[#改ページ]

  三〇九
[#地付き]一九二四、一〇、二、

南のはてが
灰いろをしてひかってゐる
ちぎれた雲のあひだから
そらと川とがしばらく闇に映《は》え合ふのだ
そこから岸の林をふくみ
川面いっぱいの液を孕んで
風がいっさん溯ってくる
ああまっ甲におれをうつ
……ちぎれた冬の外套を
  翼手のやうにひるがへす……
    (われ陀羅尼珠を失ふとき
     落魄ひとしく迫り来りぬ)
風がふたゝびのぼってくる
こはれかかったらんかんを
嘲るやうにがたがた鳴らす
……どんなにおまへが潔癖らしい顔をしても
  翼手をもった肖像は
  もう乾板にはひってゐると……
    (人も世間もどうとも云へ
     おれ
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