てゐる
小屋葺替への村人たちが嗤ふのだ
[#改ページ]

  一六  五輪峠
[#地付き]一九二四、三、二四、

宇部何だって?……
宇部興左エ門?……
ずゐぶん古い名前だな
   何べんも何べんも降った雪を
   いつ誰が踏み堅めたでもなしに
   みちはほそぼそ林をめぐる
地主ったって
君の部落のうちだけだらう
野原の方ももってるのか
   ……それは部落のうちだけです……
それでは山林でもあるんだな
   ……十町歩もあるさうです……
それで毎日糸織を着て
ゐろりのへりできせるを叩いて
政治家きどりでゐるんだな
それは間もなく没落さ
いまだってもうマイナスだらう
   向ふは岩と松との高み
   その左にはがらんと暗いみぞれのそらがひらいてゐる
そこが二番の峠かな
まだ三つなどあるのかなあ
   がらんと暗いみぞれのそらの右側に
   松が幾本生えてゐる
   藪が陰気にこもってゐる
   なかにしょんぼり立つものは
   まさしく古い五輪の塔だ
   苔に蒸された花崗岩《みかげ》の古い五輪の塔だ
あゝこゝは
五輪の塔があるために
五輪峠といふんだな
ぼくはまた
峠がみんなで五っ
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