かに暗示されたるもの、
すなはちその徳はなはだ高く
その相はるかに旺んであって
むしろ quick gold ともなすべき
わくわくたるそれを云ふのである
水はいつでも水であって
一気圧下に零度で凍り
摂氏四度の水銀は、
比重十三ポイント六なるごとき
さうした式の考へ方は
現代科学の域内にても
俗説たるを免れぬ

さう亀茲国の夕日のなかを
やっぱりたぶんかういふふうに
鳥がすうすう流れたことは
そこの出土の壁画から
たゞちに指摘できるけれども
池地の青いけむりのなかを
はぐろとんぼがとんだかどうか
そは杳として知るを得ぬ
[#改ページ]

  一五五
[#地付き]一九二四、七、五、

温く含んだ南の風が
かたまりになったり紐になったりして
りうりう夜の稲を吹き
またまっ黒な水路のへりで
はんやくるみの木立にそゝぐ
  ……地平線地平線
    灰いろはがねの天末で
    銀河のはじが茫乎とけむる……
熟した藍や糀のにほひ
一きは過ぎる風跡に
蛙の族は声をかぎりにうたひ
ほたるはみだれていちめんとぶ
  ……赤眼の蠍
    萱の髪
    わづかに澱む風の皿……
螢は消えたりともった
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