り
泥はぶつぶつ醗酵する
……風が蛙をからかって、
そんなにぎゅっぎゅっ云はせるのか
蛙が風をよろこんで、
そんなにぎゅっぎゅっ叫ぶのか……
北の十字のまはりから
三目星《カシオペーア》の座のあたり
天はまるでいちめん
青じろい疱瘡にでもかかったやう
天の川はまたぼんやりと爆発する
……ながれるといふそのことが
たゞもう風のこゝろなので
稲を吹いては鳴らすと云ひ
蛙に来ては鳴かすといふ……
天の川の見掛けの燃えを原因した
高みの風の一列は
射手のこっちで一つの邪気をそらにはく
それのみならず蠍座あたり
西蔵魔神の布呂に似た黒い思想があって
南斗のへんに吸ひついて
そこらの星をかくすのだ
けれども悪魔といふやつは、
天や鬼神とおんなじやうに、
どんなに力が強くても、
やっぱり流転のものだから
やっぱりあんなに
やっぱりあんなに
どんどん風に溶される
星はもうそのやさしい面影《アントリッツ》を恢復し
そらはふたゝび古代意慾の曼陀羅になる
……螢は青くすきとほり
稲はざわざわ葉擦れする……
うしろではまた天の川の小さな爆
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