れは一箇の神秘だよ
神秘でないよ気圧だよ
気圧でないよ耳鳴りさ
みんないっしょに耳鳴りか
もいちど鳴るといゝなといふ
センチメンタル! 葉笛を吹くな
えゝシューベルトのセレナーデ
これから独奏なさいます
やかましいやかましいやかましいい
その葉をだいじにしまっておいて
晩頂上で吹けといふ
先生先生山地の上の重たいもやのうしろから
赤く潰れたをかしなものが昇《で》てくるといふ
(それは潰れた赤い信頼!
天台、ジェームスその他によれば!)
ここらの空気はまるで鉛糖溶液です
それにうしろも三合目まで
たゞまっ白な雲の澱みにかはってゐます
月がおぼろな赤いひかりを送ってよこし
遠くで柏が鳴るといふ
月のひかりがまるで掬って呑めさうだ
それから先生、鷹がどこかで磬を叩いてゐますといふ
(ああさうですか 鷹が磬など叩くとしたら
どてらを着てゐて叩くでせうね)
鷹ではないよ くひなだよ
くひなでないよ しぎだよといふ
月はだんだん明るくなり
羊歯ははがねになるといふ
みかげの山も粘板岩の高原も
もうとっぷりと暮れたといふ
ああこの風はすなはちぼく、
且つまたぼくが、
なが
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