ろの幡をもち
きみかげさうの空谷や
たゞれたやうに鳥のなく
いくつもの緩《ゆる》い峠を越える
[#改ページ]

  一四五  比叡(幻聴)
[#地付き]一九二四、五、二五、

黒い麻のころもを着た
六人のたくましい僧たちと
わたくしは山の平に立ってゐる
  それは比叡で
  みんなの顔は熱してゐる
雲もけはしくせまってくるし
湖水も青く湛へてゐる
  (うぬぼれ うんきのないやつは)
ひとりが所在なささうにどなる
[#改ページ]

  二七  鳥の遷移
[#地付き]一九二四、六、二一、

鳥がいっぴき葱緑の天をわたって行く
わたくしは二こゑのくゎくこうを聴く
からだがひどく巨きくて
それにコースも水平なので
誰か模型に弾条《バネ》でもつけて飛ばしたやう
それだけどこか気の毒だ
鳥は遷り さっきの声は時間の軸で
青い鏃のグラフをつくる
  ……きららかに畳む山彙と
    水いろのそらの縁辺……
鳥の形はもう見えず
いまわたくしのいもうとの
墓場の方で啼いてゐる
  ……その墓森の松のかげから
    黄いろな電車がすべってくる
    ガラスがいちまいふるへてひかる
    もう一枚が
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