はひとつの海蝕台地
    古い劫《カルパ》の紀念碑である……
たよりなくつけられたそのみちをよぢ
憔悴苦行の梵土をまがふ
坎※[#「土へん+可」、第3水準1−15−40]な高原住者の隊が
一れつ蔭いろの馬をひいて
つめたい宙のけむりに消える
[#改ページ]

  四六  山火
[#地付き]一九二四、四、六、

血紅の火が
ぼんやり尾根をすべったり
またまっ黒ないたゞきで
奇怪な王冠のかたちをつくり
焔の舌を吐いたりすれば
瑪瑙の針はげしく流れ
陰気な柳の髪もみだれる
  ……けたたましくも吠え立つ犬と
    泥灰岩《マール》の崖のさびしい反射……
或いはコロナや破けた肺のかたちに変る
この恐ろしい巨きな夜の華の下
     (夫子夫子あなたのお目も血に染みました)
酔って口口罵りながら
村びとたちが帰ってくる
[#改ページ]

  五二  嬰児
[#地付き]一九二四、四、一〇、

なにいろをしてゐるともわからない
ひろぉいそらのひととこで
縁《へり》のまばゆい黒雲が
つぎからつぎと爆発される
     (そらたんぽぽだ
      しっかりともて)
それはひとつづついぶった太陽の射
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