面を過ぎて
いっぺんごとにおまへを青くかなしませる
……そんなら雲がわるいといって
雲なら風に消されたり
そのときどきにひかったり
たゞそのことが雲のこころといふものなのだ……
そしてひとでもおんなじこと
鳥は矢羽のかたちになって
いくつも杉の梢に落ちる
[#改ページ]
五三 休息
[#地付き]一九二四、四、一〇、
風はうしろの巨きな杉や
わたくしの黄いろな仕事着のえりを
つぎつぎ狼の牙にして過ぎるけれども
わたくしは白金の百合のやうに
……三本鍬の刃もふるへろ……
ほのかにねむることができる
[#改ページ]
六九
[#地付き]一九二四、四、一九、
どろの木の下から
いきなり水をけたてて
月光のなかへはねあがったので
狐かと思ったら
例の原始の水きねだった
横に小さな小屋もある
粟か何かを搗くのだらう
水はたうたうと落ち
ぼそぼそ青い火を噴いて
きねはだんだん下りてゐる
水を落してまたはねあがる
きねといふより一つの舟だ
舟といふより一つのさじだ
ぼろぼろ青くまたやってゐる
どこかで鈴が鳴ってゐる
丘も峠もひっそりとして
そこらの草は
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