の下。
帰りみち、ひでり雨が降りまたかゞやかに霽《は》れる。そのかゞやく雲の原
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今日こそ飛んであの雲を踏め。
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けれどもいつか私は道に置きすてられた荷馬車の上に洋傘《かうもりがさ》を開いて立ってゐるのだ。
ひどい怒鳴り声がする。たしかに荷馬車の持ち主だ。怒りたけって走って来る。そのほっペたが腐って黒いすもものやう、いまにも穴が明きさうだ。癩病《らいびゃう》にちがひない。さびしいことだ。
虹《にじ》がたってゐる。虹の脚にも月見草が咲き又こゝらにもそのバタの花。一つぶ二つぶひでりあめがきらめき、去年の堅い褐色《かっしょく》のすがれに落ちる。
すっかり晴れて暑くなった。雫石《しづくいし》川の石垣《いしがき》は烈《はげ》しい草のいきれの中にぐらりぐらりとゆらいでゐる。その中でうとうとする。
遠くの楊《やなぎ》の中の白雲でくわ[#「わ」は小書き]くこうが啼《な》いた。
「あの鳥はゆふべ一晩なき通しだな。」
「うんうん鳴いてゐた。」誰《たれ》かが云ってゐる。
底本:「新修宮沢賢治全集 第十四巻」筑摩書房
1980(昭和
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