秋田街道
宮沢賢治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)盛岡《もりをか》の
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)沢山|吠《ほ》え
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「わ」は小書き]
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どれもみんな肥料や薪炭をやりとりするさびしい家だ。街道のところどころにちらばって黒い小さいさびしい家だ。それももうみな戸を閉めた。
おれはかなしく来た方をふりかへる。盛岡《もりをか》の電燈は微《かす》かにゆらいでねむさうにならび只《ただ》公園のアーク燈だけ高い処《ところ》でそらぞらしい気焔《きえん》の波を上げてゐる。どうせ今頃《いまごろ》は無鉄砲な羽虫が沢山集ってぶっつかったりよろけたりしてゐるのだ。
私はふと空いっぱいの灰色はがねに大きな床屋のだんだら棒、あのオランダ伝来の葱《ねぎ》の蕾《つぼみ》の形をした店飾りを見る。これも随分たよりないことだ。
道が小さな橋にかゝる。螢《ほたる》がプイと飛んで行く。誰《たれ》かがうしろで手をあげて大きくためいきをついた。それも間違ひかわからない。とにかくそらが
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