に高くかかる。

 みんなは七つ森の機嫌《きげん》の悪い暁の脚まで来た。道が俄《には》かに青々と曲る。その曲り角におれはまた空にうかぶ巨《おほ》きな草穂《くさぼ》を見るのだ。カアキイ色の一人の兵隊がいきなり向ふにあらはれて青い茂みの中にこゞむ。さうだ。あそこに湧水《わきみづ》があるのだ。

 雲が光って山山に垂れ冷たい奇麗な朝になった。長い長い雫石《しづくいし》の宿に来た。犬が沢山|吠《ほ》え出した。けれどもみんなお互に争ってゐるのらしい。

 葛根田《かっこんだ》川の河原におりて行く。すぎなに露が一ぱいに置き美しくひらめいてゐる。新鮮な朝のすぎなに。

 いつかみんな睡《ねむ》ってゐたのだ。河本さんだけ起きてゐる。冷たい水を渉《わた》ってゐる。変に青く堅さうなからだをはだかになって体操をやってゐる。

 睡ってゐる人の枕《まくら》もとに大きな石をどしりどしりと投げつける。安山岩の柱状節理、安山岩の板状節理。水に落ちてはつめたい波を立てうつろな音をあげ、目を覚ました、目を覚ました。低い銀の雲の下で愕《おどろ》いてよろよろしてゐる。それから怒ってゐる。今度はにがわらひをしてゐる。銀色の雲
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