許《ゆる》されそうな休みの日を外では鳥が針《はり》のように啼《な》き日光がしんしんと降《ふ》った。嘉吉がもうひる近いからと起《おこ》されたのはもう十一時近くであった。
 おみちは餅《もち》の三いろ、あんのと枝豆《えだまめ》をすってくるんだのと汁《しる》のとを拵《こしら》えてしまって膳《ぜん》の支度《したく》もして待《ま》っていた。嘉吉は楊子《ようじ》をくわいて峠《とうげ》へのみちをよこぎって川におりて行った。それは白と鼠《ねずみ》いろの縞《しま》のある大理石《だいりせき》で上流《じょうりゅう》に家のないそのきれいな流《なが》れがざあざあ云《い》ったりごぼごぼ湧《わ》いたりした。嘉吉《かきち》はすぐ川下《かわしも》に見える鉱山《こうざん》の方を見た。鉱山も今日はひっそりして鉄索《てつさく》もうごいていず青ぞらにうすくけむっていた。嘉吉はせいせいしてそれでもまだどこかに溶《と》けない熱《あつ》いかたまりがあるように思いながら小屋《こや》へ帰って来た。嘉吉は鉱山の坑木《こうぼく》の係《かか》りではもう頭株《かしらかぶ》だった。それに前は小林区《しょうりんく》の現場監督《げんばかんとく》もして
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