した。二人は西根山の方を見ました。けれどもそこから滝の音が聞えて来るとはどうも思はれませんでした。
お母さんが向ふへ行って今度はおばあさんが来ました。
「ばさん。かう云《ゆ》にしてガアガアコーコーど鳴るものぁ何だべ。」
おばあさんはやれやれと腰をのばして、手の甲で額を一寸《ちょっと》こすりながら、二人の方を見て云ひました。
「天《あま》の邪鬼《しゃぐ》の小便《しょんべ》の音さ。」
二人は変な顔をしながら黙ってしばらくその音を呼び寄せて聞いてゐましたが、俄《には》かに善コがびっくりする位叫びました。
「ほう、天の邪鬼の小便ぁ永ぃな。」
そこで嘉ッコが飛びあがって笑っておばあさんの所に走って行って云ひました。
「アッハッハ、ばさん。天の邪鬼の小便ぁたまげだ永ぃな。」
「永ぃてさ、天の邪鬼ぁいっつも小便、垂れ通しさ。」とおばあさんはすまして云ひながら又豆を抜きました。嘉ッコは呆《あき》れてぼんやりとむしろに座りました。
お日さまはうすい白雲にはひり、黒い鳥が高く高く環《わ》をつくってゐます。その雲のこっち、豆の畑の向ふを、鼠《ねずみ》色の服を着て、鳥打をかぶったせいのむやみに高い男
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