山地の稜
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)眼《め》は

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一向|差支《さしつか》へはない

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「ん」は小書き]
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 高橋吉郎が今朝は殊に小さくて青じろく少しけげんさうにこっちを見てゐる。清原も見てゐる。たった二人でぬれた運動場の朝のテニスもさびしいだらう。そのいぶかしさうな眼《め》はどこかへ行くならおれたちも行きたいなと云《い》ふのか。それとも私が温床へ水でも灌《そそ》ぐとこかも知れないと考へてゐるのか。黄いろの上着を着たってきっと働くと限ったわけぢゃないんだぞ。私は今朝は一寸《ちょっと》の間つめたい草を見て来たいんだ。だから一人だ。つれて行かない。大事なんだから。
 温床とこはれた浴槽《よくさう》。
 こゝの細い桑も今はまったくやはらかな芽を出した。その細桑の灰光は明らかで光ってそしてそろってゐる。
 すぎなは青く美しくすぎなは青くて透明な露もとまって本当に新らしいのだ。
 右手の奥の方では寄宿の窓のガラスも光る。
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