てゐる。請負の〔二字分空白〕さんも居るだらう。ずうっと足の下だ。こっちは橋の上を行くのだから一向かまはない。南の方はそら一杯に霽《は》れた。土耳古《トルコ》玉だ。それから東には敏感な空の白髪が波立つ。光の雲のうねと云った方がいゝ、南はひらけたトウクォイス、東は銀の雲のうね、書いて行かうか。けれどもどうも斯《か》う云ふ調子にのった語《ことば》は軽薄でいけない。それでもやっぱり仕方ない。
 もう鉄橋を渡って行かう。鉄橋を渡るときポケットに手を入れて行くのはいゝにはいゝんだ。下でも人が見てゐるし。けれどもやっぱりごく堅実に渡って行くのだ当然だ。人はゐるゐる。あの二つの顔は知ってゐる。枕木《まくらぎ》はうすい灰色曲ったり間隔もずゐぶん不同だ。水がたしかに下を流れてゐるけれどもおれはそれを見ようとはしない。気にかゝるのは却《かへ》って南のトークォイスの光の板だ。
 渡れ渡れ、一体これではあんまり枕木の間隔がせますぎるのだ。大股《おほまた》に踏んで行かれない。もう水の流れる所も通ったし、ずゐぶん早い。この二枚の小さな縦板は汽車をよける為《ため》のだな。こゝで首尾よくよけられるだらうか。もし今汽車が
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