」、第4水準2−83−13]《らう》におれははひつた。それでもやつぱり、お日さまは外で照つてゐる。)山男はひとりでこんなことを呟《つぶ》やいて無理にかなしいのをごまかさうとしました。するとこんどは、急にもつとくらくなりました。
(ははあ、風呂敷《ふろしき》をかけたな。いよいよ情けないことになつた。これから暗い旅になる。)山男はなるべく落ち着いてかう言ひました。
 すると愕《おど》ろいたことは山男のすぐ横でものを言ふやつがあるのです。
「おまへさんはどこから来なすつたね。」
 山男ははじめぎくつとしましたが、すぐ、
(ははあ、六神丸といふものは、みんなおれのやうなぐあひに人間が薬で改良されたもんだな。よしよし、)と考へて、
「おれは魚屋の前から来た。」と腹に力を入れて答へました。すると外から支那人が噛《か》みつくやうにどなりました。
「声あまり高い。しづかにするよろしい。」
 山男はさつきから、支那人がむやみにしやくにさはつてゐましたので、このときはもう一ぺんにかつとしてしまひました。
「何だと。何をぬかしやがるんだ。どろぼうめ。きさまが町へはひつたら、おれはすぐ、この支那人はあやしいや
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