から、小さな赤い薬瓶《くすりびん》のやうなものをつかみだしました。
(おやおや、あの手の指はずゐぶん細いぞ。爪《つめ》もあんまり尖《とが》つてゐるしいよいよこはい。)山男はそつとかうおもひました。
 支那人はそのうちに、まるで小指ぐらゐあるガラスのコツプを二つ出して、ひとつを山男に渡しました。
「あなた、この薬のむよろしい。毒ない。決して毒ない。のむよろしい。わたしさきのむ。心配ない。わたしビールのむ、お茶のむ。毒のまない。これながいきの薬ある。のむよろしい。」支那人はもうひとりでかぷつと呑《の》んでしまひました。
 山男はほんたうに呑んでいゝだらうかとあたりを見ますと、じぶんはいつか町の中でなく、空のやうに碧《あを》いひろい野原のまんなかに、眼のふちの赤い支那人とたつた二人、荷物を間に置いて向ひあつて立つてゐるのでした。二人のかげがまつ黒に草に落ちました。
「さあ、のむよろしい。ながいきのくすりある。のむよろしい。」支那人は尖つた指をつき出して、しきりにすすめるのでした。山男はあんまり困つてしまつて、もう呑んで遁《に》げてしまはうとおもつて、いきなりぷいつとその薬をのみました。すると
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