、ひとりでに飛ぶのか、どこといふあてもなく、ふらふらあるいてゐたのです。
(ところがここは七つ森だ。ちやんと七つつ、森がある。松のいつぱい生えてるのもある、坊主で黄いろなのもある。そしてここまで来てみると、おれはまもなく町へ行く。町へはひつて行くとすれば、化けないとなぐり殺される。)
 山男はひとりでこんなことを言ひながら、どうやら一人《ひとり》まへの木樵《きこり》のかたちに化けました。そしたらもうすぐ、そこが町の入口だつたのです。山男は、まだどうも頭があんまり軽くて、からだのつりあひがよくないとおもひながら、のそのそ町にはひりました。
 入口にはいつもの魚屋があつて、塩鮭《しほざけ》のきたない俵だの、くしやくしやになつた鰯《いわし》のつらだのが台にのり、軒には赤ぐろいゆで章魚《だこ》が、五つつるしてありました。その章魚を、もうつくづくと山男はながめたのです。
(あのいぼのある赤い脚のまがりぐあひは、ほんたうにりつぱだ。郡役所の技手《ぎて》の、乗馬ずぼんをはいた足よりまだりつぱだ。かういふものが、海の底の青いくらいところを、大きく眼をあいてはつてゐるのはじつさいえらい。)
 山男はおも
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