円くしてごろりと寝ころびました。
 どこかで小鳥もチツチツと啼《な》き、かれ草のところどころにやさしく咲いたむらさきいろのかたくりの花もゆれました。
 山男は仰向《あふむ》けになつて、碧《あを》いああをい空をながめました。お日さまは赤と黄金《きん》でぶちぶちのやまなしのやう、かれくさのいゝにほひがそこらを流れ、すぐうしろの山脈では、雪がこんこんと白い後光をだしてゐるのでした。
(飴《あめ》といふものはうまいものだ。天道《てんと》は飴をうんとこさへてゐるが、なかなかおれにはくれない。)
 山男がこんなことをぼんやり考へてゐますと、その澄み切つた碧いそらをふわふわうるんだ雲が、あてもなく東の方へ飛んで行きました。そこで山男は、のどの遠くの方を、ごろごろならしながら、また考へました。
(ぜんたい雲といふものは、風のぐあひで、行つたり来たりぽかつと無くなつてみたり、俄《には》かにまたでてきたりするもんだ。そこで雲助とかういふのだ。)
 そのとき山男は、なんだかむやみに足とあたまが軽くなつて、逆さまに空気のなかにうかぶやうな、へんな気もちになりました。もう山男こそ雲助のやうに、風にながされるのか
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