》らなくなってしまひました。それからまはりがまっ蒼《さを》になって、ぐるぐる廻り、たうとう達二は、深い草の中に倒れてしまひました。牛の白い斑が終りにちらっと見えました。
達二は、仰向《あふむ》けになって空を見ました。空がまっ白に光って、ぐるぐる廻り、そのこちらを薄い鼠《ねずみ》色の雲が、速く速く走ってゐます。そしてカンカン鳴ってゐます。
達二はやっと起き上って、せかせか息しながら、牛の行った方に歩き出しました。草の中には、牛が通った痕《あと》らしく、かすかな路のやうなものがありました。達二は笑ひました。そして、
(ふん。なあに、何処《どこ》かで、のっこり立ってるさ。)と思ひました。
そこで達二は、一生懸命それを跡《つ》けて行きました。ところがその路のやうなものは、まだ百歩も行かないうちに、をとこへしや、すてきに背高の薊《あざみ》の中で、二つにも三つにも分れてしまって、どれがどれやら一向わからなくなってしまひました。達二は思ひ切って、そのまん中のを進みました。けれどもそれも、時々|断《き》れたり、牛の歩かないやうな急な所を横様《よこざま》に過ぎたりするのでした。それでも達二は、
(
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