手紙 四
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)云《い》い
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 わたくしはあるひとから云《い》いつけられて、この手紙を印刷《いんさつ》してあなたがたにおわたしします。どなたか、ポーセがほんとうにどうなったか、知っているかたはありませんか。チュンセがさっぱりごはんもたべないで毎日考えてばかりいるのです。
 ポーセはチュンセの小さな妹ですが、チュンセはいつもいじ悪《わる》ばかりしました。ポーセがせっかく植《う》えて、水をかけた小さな桃《もも》の木になめくじをたけておいたり、ポーセの靴《くつ》に甲虫《かぶとむし》を飼《か》って、二月《ふたつき》もそれをかくしておいたりしました。ある日などはチュンセがくるみの木にのぼって青い実《み》を落《おと》していましたら、ポーセが小さな卵形《たまごがた》のあたまをぬれたハンケチで包《つつ》んで、「兄さん、くるみちょうだい。」なんて云《い》いながら大へんよろこんで出て来ましたのに、チュンセは、「そら、とってごらん。」とまるで怒《おこ》ったような声で云《い》ってわざと頭に実を投《な》げつけるようにして泣《な》かせて帰し
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