あつく、竜はくるしさにばたばたしながら水のあるところへ行こうとしました。
このとき沢山《たくさん》の小さな虫が、そのからだを食おうとして出てきましたので蛇《へび》はまた、
「いまこのからだをたくさんの虫にやるのはまことの道のためだ。いま肉をこの虫らにくれておけばやがてはまことの道をもこの虫らに教えることができる。」と考えて、だまってうごかずに虫にからだを食わせとうとう乾《かわ》いて死《し》んでしまいました。
死んでこの竜は天上にうまれ、後には世界《せかい》でいちばんえらい人、お釈迦様《しゃかさま》になってみんなに一番のしあわせを与《あた》えました。
このときの虫もみなさきに竜の考えたように後にお釈迦さまから教《おしえ》を受《う》けてまことの道に入りました。
このようにしてお釈迦さまがまことのために身《み》をすてた場所《ばしょ》はいまは世界中のあらゆるところをみたしました。
このはなしはおとぎばなしではありません。



底本:「ポラーノの広場」角川文庫、角川書店
   1996(平成8)年6月25日初版発行
底本の親本:「新校本 宮澤賢治全集」筑摩書房
   1995(平成7)年5月

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