ゝろをもちて
よろこばんその性を得ん

さらばいざ死《しに》よとり行け
この世にてわが経ざりける
数々の快楽の列は
われよりも美しけきひとの
すこやかにうちも得ななん
そのことぞいとゞたのしき
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  〔手は熱く足はなゆれど〕


手は熱く足はなゆれど
われはこれ塔建つるもの

滑り来し時間の軸の
をちこちに美ゆくも成りて
燦々と暗をてらせる
その塔のすがたかしこし
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  〔あゝ今日ここに果てんとや〕


あゝ今日ここに果てんとや
燃ゆるねがひはありながら
外のわざにのみまぎらひて
十年はつひに過ぎにけり

懺悔の汗に身をば燃し
もだえの血をば吐きながら
たゞねがふらく蝕みし
この身捧げん壇あれと
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  〔その恐ろしい黒雲が〕


その恐ろしい黒雲が
またわたくしをとらうと来れば
わたくしは切なく熱くひとりもだえる
北上の河谷を覆ふ
あの雨雲と婚すると云ひ
森と野原をこもごも載せた
その洪積の大地を恋ふと
なかばは戯れに人にも寄せ
なかばは気を負ってほんたうにさうも思ひ
青い山河をさながらに
じぶんじしんと考へた
あゝそのことは私を責める

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