黒暗のかなたより
あやしき鐘の声すなり

雪をのせたる屋根屋根や
黒き林のかなたより
かつては聞かぬその鐘の
いとあざけくもひゞきくる

そはかの松の並木なる
円通寺より鳴るらんか
はた飯豊の丘かげの
東光寺よりひゞけるや

とむらふごとくあるときは
醒ますがごとくその鐘の
汗となやみに硬ばりし
わがうつそみをうち過ぐる
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  〔熱とあへぎをうつゝなみ〕


熱とあへぎをうつゝなみ
死《しに》のさかひをまどろみし
このよもすがらひねもすを
さこそはまもり給ひしか

瓔珞もなく沓もなく
たゞ灰いろのあらぬのに
庶民がさまをなしまして
みこゝろしづに居りたまふ

み名を知らんにおそれあり
さは云へまことかの文に
三たびぞ記し置かれける
おんめがみとぞ思はるゝ

さればなやみと熱ゆゑに
みだれごころのさなかにも
み神のみ名によらずして
法の名にこそきましけれ

瓔珞もなく沓もなく
はてなき業の児らゆゑに
みまゆに雲のうれひして
さこそはしづに居りたまふ
[#改ページ]

  〔わが胸はいまや蝕み〕
[#地付き]一九二八ヽ一二ヽ

わが胸はいまや蝕み
わがのんど熱く燃えたり


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