、息《いぎ》吐《つ》でるが、息《いぎ》。」
「さあ、そでば、気付けないがた。」
「こんどあ、おれあ行って見べが。」
「行ってみろ」
三番目の鹿《しか》がまたそろりそろりと進みました。そのときちょっと風が吹いて手拭がちらっと動きましたので、その進んで行った鹿はびっくりして立ちどまってしまい、こっちのみんなもびくっとしました。けれども鹿はやっとまた気を落ちつけたらしく、またそろりそろりと進んで、とうとう手拭まで鼻さきを延ばした。
こっちでは五疋がみんなことりことりとお互《たがい》にうなずき合って居《お》りました。そのとき俄かに進んで行った鹿が竿立《さおだ》ちになって躍《おど》りあがって遁げてきました。
「何《な》して遁げできた。」
「気味悪《きびわり》ぐなてよ。」
「息《いぎ》吐《つ》でるが。」
「さあ、息《いぎ》の音《おど》あ為《さ》ないがけあな。口《くぢ》も無いようだけあな。」
「あだまあるが。」
「あだまもゆぐわがらないがったな。」
「そだらこんだおれ行って見べが。」
四番目の鹿が出て行きました。これもやっぱりびくびくものです。それでもすっかり手拭の前まで行って、いかにも思い切
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