つた》ぐだ。」
こんなことばも聞《き》きました。
「生《い》ぎものだがも知《し》れないじやい。」
「うん。生《い》ぎものらしどごもあるな。」
こんなことばも聞《きこ》えました。そのうちにたうたう一|疋《ぴき》が、いかにも決心《けつしん》したらしく、せなかをまつすぐにして環《わ》からはなれて、まんなかの方《はう》に進《すゝ》み出《で》ました。
 みんなは停《とま》つてそれを見《み》てゐます。
 進《すゝ》んで行《い》つた鹿《しか》は、首《くび》をあらんかぎり延《の》ばし、四本《しほん》の脚《あし》を引《ひ》きしめ引《ひ》きしめそろりそろりと手拭《てぬぐひ》に近《ちか》づいて行《い》きましたが、俄《には》かにひどく飛《と》びあがつて、一|目散《もくさん》に遁《に》げ戻《もど》つてきました。廻《まは》りの五|疋《ひき》も一ぺんにぱつと四方《しはう》へちらけやうとしましたが、はじめの鹿《しか》が、ぴたりととまりましたのでやつと安心《あんしん》して、のそのそ戻《もど》つてその鹿《しか》の前《まへ》に集《あつ》まりました。
「なぢよだた。なにだた、あの白《しろ》い長《なが》いやづあ。」
「縦《たて
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