した。
 そこでみんなは青いりんごの皮《かわ》をむきはじめました。山男もむいてたべました。そして実《み》をすっかりたべてからこんどはかまどをぱくりとたべました。それからちょっとそばをたべるような風にして皮もたべました。工芸《こうげい》学校の先生はちらっとそれを見ましたが知らないふりをしておりました。
 さてだんだん夜も更《ふ》けましたので会長さんが立って、
「やあこれで解散《かいさん》だ。諸君《しょくん》めでたしめでたし。ワッハッハ。」とやって会は終《おわ》りました。
 そこで山男は顔をまっかにして肩《かた》をゆすって一度《いちど》にはしごだんを四つくらいずつ飛《と》んで玄関《げんかん》へ降《お》りて行きました。
 みんなが見送《みおく》ろうとあとをついて玄関まで行ったときは山男はもう居《い》ませんでした。
 丁度《ちょうど》七つの森の一番はじめの森に片脚《かたあし》をかけたところだったのです。
 さて紫紺染《しこんぞめ》が東京|大博覧会《だいはくらんかい》で二等賞《にとうしょう》をとるまでにはこんな苦心《くしん》もあったというだけのおはなしであります。



底本:「ポラーノの広場」角川文庫、角川書店
   1996(平成8)年6月25日初版発行
底本の親本:「新校本 宮澤賢治全集」筑摩書房
   1995(平成7)年7月5日〜
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年5月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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