だが、おれはどうもきさまの物言いが気に食わないのでな。やい。何つうつらだ。こら、貴さん」
 男は汗を拭《ふ》きながら、やっと又言いました。
「薪をあとで百把持って来てやっから、許してくれろ」
 すると若者が怒ってしまいました。
「うそをつけ、この野郎。どこの国に、団子二串に薪百把払うやづがあっか。全体きさんどこのやつだ」
「そ、そ、そ、そ、そいつはとても言われない。許してくれろ」男は黄金《きん》色の眼をぱちぱちさせて、汗をふきふき言いました。一緒に涙もふいたようでした。
「ぶん撲《なぐ》れ、ぶん撲れ」誰《たれ》かが叫びました。
 亮二はすっかりわかりました。
(ははあ、あんまり腹がすいて、それにさっき空気獣で十銭払ったので、あともう銭のないのも忘れて、団子を食ってしまったのだな。泣いている。悪い人でない。かえって正直な人なんだ。よし、僕が助けてやろう)
 亮二はこっそりがま口から、ただ一枚残った白銅を出して、それを堅く握って、知らないふりをしてみんなを押しわけて、その男のそばまで行きました。男は首を垂れ、手をきちんと膝《ひざ》まで下げて、一生けん命口の中で何かもにゃもにゃ言っていました
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