ぼんやりそこに立っていました。
そしたら向うのひのきの陰の暗い掛茶屋の方で、なにか大きな声がして、みんながそっちへ走って行きました。亮二も急いでかけて行って、みんなの横からのぞき込みました。するとさっきの大きな男が、髪をもじゃもじゃして、しきりに村の若い者にいじめられているのでした。額から汗を流してなんべんも頭を下げていました。
何か言おうとするのでしたが、どうもひどくどもってしまって語《ことば》が出ないようすでした。
てかてか髪をわけた村の若者が、みんなが見ているので、いよいよ勢いよくどなっていました。
「貴様※[#小書き平仮名ん、73−12]みたいな、よそから来たものに馬鹿《ばか》にされて堪《たま》っか。早く銭を払え、銭を。ないのか、この野郎。ないなら何《な》して物食った。こら」
男はひどくあわてて、どもりながらやっと言いました。
「た、た、た、薪《たきぎ》百|把《ぱ》持って来てやるがら」
掛茶屋の主人は、耳が少し悪いとみえて、それをよく聞きとりかねて、かえって大声で言いました。
「何だと。たった二串《ふたくし》だと。あたりまえさ。団子の二串やそこら、くれてやってもいいの
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