見えなくなってしまいました。
達二はその見世物の看板を指さしながら、声をひそめて言いました。
「お前はこの見世物にはいったのかい。こいつはね、空気獣だなんていってるが、実はね、牛の胃袋に空気をつめたものだそうだよ。こんなものにはいるなんて、おまえはばかだな」
亮二がぼんやりそのおかしな形の空気獣の看板を見ているうちに、達二が又言いました。
「おいらは、まだおみこしさんを拝んでいないんだ。あした又会うぜ」そして片脚で、ぴょんぴょん跳ねて、人ごみの中にはいってしまいました。
亮二も急いでそこをはなれました。その辺一ぱいにならんだ屋台の青い苹果《りんご》や葡萄《ぶどう》が、アセチレンのあかりできらきら光っていました。
亮二は、アセチレンの火は青くてきれいだけれどもどうも大蛇《だいじゃ》のような悪い臭《におい》がある、などと思いながら、そこを通り抜けました。
向うの神楽殿《かぐらでん》には、ぼんやり五つばかりの提灯《ちょうちん》がついて、これからおかぐらがはじまるところらしく、てびらがねだけしずかに鳴っておりました。(昌一《しょういち》もあのかぐらに出る)と亮二は思いながら、しばらく
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