。
亮二はしゃがんで、その男の草履をはいた大きな足の上に、だまって白銅を置きました。すると男はびっくりした様子で、じっと亮二の顔を見下していましたが、やがていきなり屈《かが》んでそれを取るやいなや、主人の前の台にぱちっと置いて、大きな声で叫びました。
「そら、銭を出すぞ。これで許してくれろ。薪を百把あとで返すぞ。栗《くり》を八斗あとで返すぞ」言うが早いか、いきなり若者やみんなをつき退《の》けて、風のように外へ遁《に》げ出してしまいました。
「山男だ、山男だ」みんなは叫んで、がやがやあとを追おうとしましたが、もうどこへ行ったか、影もかたちも見えませんでした。
風がごうごうっと吹き出し、まっくろなひのきがゆれ、掛茶屋のすだれは飛び、あちこちのあかりは消えました。
かぐらの笛がそのときはじまりました。けれども亮二はもうそっちへは行かないで、ひとり田圃《たんぼ》の中のほの白い路《みち》を、急いで家の方へ帰りました。早くお爺《じい》さんに山男の話を聞かせたかったのです。ぼんやりしたすばるの星がもうよほど高くのぼっていました。
家に帰って、厩《うまや》の前から入って行きますと、お爺さんはた
前へ
次へ
全10ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング