月夜のでんしんばしら
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)居《お》りました

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)上等兵|殿《どの》

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(例)[#ここから3字下げ]
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 ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居《お》りました。
 たしかにこれは罰金《ばっきん》です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり殺されてしまったでしょう。
 ところがその晩は、線路見まわりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあいませんでした。そのかわり、どうもじつに変てこなものを見たのです。
 九日の月がそらにかかっていました。そしてうろこ雲が空いっぱいでした。うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとおってよろよろするというふうでした。その雲のすきまからときどき冷たい星がぴっかりぴっかり顔をだしました。
 恭一はすたすたあるいて、もう向うに停車場《ていしゃば》のあかりがきれいに見えるとこまできました。ぽつんとしたまっ赤
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