顔をまるでめちゃくちゃにしてよろこびました。
「はっはっは、面白《おもしろ》いさ。それ、その工兵も、その竜騎兵も、向うのてき弾兵《だんへい》も、みんなおれの兵隊だからな。」
 じいさんはぷっとすまして、片っ方の頬《ほお》をふくらせてそらを仰《あお》ぎました。それからちょうど前を通って行く一本のでんしんばしらに、
「こらこら、なぜわき見をするか。」とどなりました。するとそのはしらはまるで飛びあがるぐらいびっくりして、足がぐにゃんとまがりあわててまっすぐを向いてあるいて行きました。次から次とどしどしはしらはやって来ます。
「有名なはなしをおまえは知ってるだろう。そら、むすこが、エングランド、ロンドンにいて、おやじがスコットランド、カルクシャイヤにいた。むすこがおやじに電報をかけた、おれはちゃんと手帳へ書いておいたがね、」
 じいさんは手帳を出して、それから大きなめがねを出してもっともらしく掛《か》けてから、また云いました。
「おまえは英語はわかるかい、ね、センド、マイブーツ、インスタンテウリイすぐ長靴送れとこうだろう、するとカルクシャイヤのおやじめ、あわてくさっておれのでんしんのはりがねに
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