らに、
「こらこら、なぜわき見をするか。」とどなりました。するとそのはしらはまるで飛びあがるぐらゐびつくりして、足がぐにやんとまがりあわててまつすぐを向いてあるいて行きました。次から次とどしどしはしらはやつて来ます。
「有名なはなしをおまへは知つてるだらう。そら、むすこが、エングランド、ロンドンにゐて、おやぢがスコツトランド、カルクシヤイヤにゐた。むすこがおやぢに電報をかけた、おれはちやんと手帳へ書いておいたがね、」
 ぢいさんは手帳を出して、それから大きなめがねを出してもつともらしく掛けてから、また云ひました。
「おまへは英語はわかるかい、ね、センド、マイブーツ、インスタンテウリイすぐ長靴送れとかうだらう、するとカルクシヤイヤのおやぢめ、あわてくさつておれのでんしんのはりがねに長靴をぶらさげたよ。はつはつは、いや迷惑したよ。それから英国ばかりぢやない、十二月ころ兵営へ行つてみると、おい、あかりをけしてこいと上等兵殿に云はれて新兵が電燈をふつふつと吹いて消さうとしてゐるのが毎年五人や六人はある。おれの兵隊にはそんなものは一人もないからな。おまへの町だつてさうだ、はじめて電燈がついたころ
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