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「ドツテテドツテテ、ドツテテド、
タールを塗れるなが靴の
歩はばは三百六十尺。」
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恭一はすつかりこはくなつて、歯ががちがち鳴りました。ぢいさんはしばらく月や雲の工合《ぐあひ》をながめてゐましたが、あまり恭一が青くなつてがたがたふるえてゐるのを見て、気の毒になつたらしく、少ししづかに斯《か》う云ひました。
「おれは電気総長だよ。」
恭一も少し安心して
「電気総長といふのは、やはり電気の一種ですか。」ときゝました。するとぢいさんはまたむつとしてしまひました。
「わからん子供だな。ただの電気ではないさ。つまり、電気のすべての長、長といふのはかしらとよむ。とりもなほさず電気の大将といふことだ。」
「大将ならずゐぶんおもしろいでせう。」恭一がぼんやりたづねますと、ぢいさんは顔をまるでめちやくちやにしてよろこびました。
「はつはつは、面白いさ。それ、その工兵も、その竜騎兵も、向ふのてき弾兵も、みんなおれの兵隊だからな。」
ぢいさんはぷつとすまして、片つ方の頬《ほほ》をふくらせてそらを仰ぎました。それからちやうど前を通つて行く一本のでんしんばし
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