。お前は無罪だ。あとでご馳走《ちそう》に呼んでやらう。」
 狐《きつね》が口を出しました。
「大王。こいつは偽《うそ》つきです。立ち聴きをしてゐたのです。寝てゐたなんてうそです。ご馳走なんてとんでもありません。」
 狸《たぬき》がやっきとなって腹鼓を叩《たた》いて狐を責めました。
「何だい。人を中傷するのか。お前はいつでもさうだ。」
 すると狐もいよいよ本気です。
「中傷といふのはな。ありもしないことで人を悪く云ふことだ。お前が立ち聴きをしてゐたのだからそのとほり正直にいふのは中傷ではない。裁判といふもんだ。」
 獅子《しし》が一寸《ちょっと》ステッキをつき出して云ひました。
「こら、裁判といふのはいかん。裁判といふのはもっとえらい人がするのだ。」
 狐が云ひました。
「間違ひました。裁判ではありません。評判です。」
 獅子がまるであからんだ栗《くり》のいがの様な顔をして笑ひころげました。
「アッハッハ。評判では何にもならない。アッハッハ。お前たちにも呆《あき》れてしまふ。アッハッハ。」
 それからやっと笑ふのをやめて云ひました。
「よしよし。狸は許してやらう。行け。」
「さうかな。ではさよなら。」と狸は又|藪《やぶ》の中に這《は》ひ込みました。カサカサカサカサ音がだんだん遠くなります。何でも余程遠くの方まで行くらしいのです。
 獅子はそれをきっと見送って云ひました。
「狐。どうだ。これからは改心するか、どうだ。改心するなら今度だけ許してやらう。」
「へいへい。それはもう改心でも何でもきっといたします。」
「改心でも何でもだと。どんなことだ。」
「へいへい。その改心やなんか、いろいろいゝことをみんなしますので。」
「あゝやっぱりお前はまだだめだ。困ったやつだ。仕方ない、今度は罰しなければならない。」
「大王様。改心だけをやります。」
「いやいや。朝までこゝに居ろ。夜あけ迄《まで》に毛をむしる係りをよこすから。もし逃げたら承知せんぞ。」
「今月の毛をむしる係りはどなたでございますか。」
「猿《さる》だ。」
「猿。へい。どうかご免をねがひます。あいつは私とはこの間から仲が悪いのでどんなひどいことをするか知れません。」
「なぜ仲が悪いのだ。おまへは何か欺《だま》したらう。」
「いゝえ。さうではありません。」
「そんならどうしたのだ。」
「猿が私の仕掛けた草わなをこはしまし
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