に延びたんだらう。おまけにさきをくるっと曲げると、まるでおれのステッキの柄のやうになる。」
「はい。それは全く仰《おほ》せの通りでございます。耳や足さきなんかはがさがさして少し汚なうございます。」
「さうだ。汚いとも。耳はボロボロの麻のはんけち或《あるい》は焼いたするめのやうだ。足さきなどはことに見られたものでない。まるで乾いた牛の糞《くそ》だ。」
「いや、さう仰《お》っしゃってはあんまりでございます。それでお名前を何と云はれましたでございませうか。」
「象だ。」
「いまはどちらにおいででございませうか。」
「俺《おれ》は象の弟子でもなければ貴様の小使ひでもないぞ。」
「はい、失礼をいたしました。それではこれでご免を蒙《かうむ》ります。」
「行け行け。」白熊《しろくま》は頭を掻《か》きながら一生懸命向ふへ走って行きました。象はいまごろどこかで赤い蛇《じゃ》の目の傘《かさ》をひろげてゐる筈《はず》だがとわたくしは思ひました。
ところが獅子《しし》は白熊のあとをじっと見送って呟《つぶ》やきました。
「白熊め、象の弟子にならうといふんだな。頭の上の方がひらたくていゝ弟子になるだらうよ。」そして又のそのそと歩き出しました。
月の青いけむりのなかに樹《き》のかげがたくさん棒のやうになって落ちました。
そのまっくろな林のなかから狐《きつね》が赤縞《あかじま》の運動ズボンをはいて飛び出して来ていきなり獅子の前をかけぬけようとしました。獅子は叫びました。
「待て。」
狐は電気をかけられたやうにブルルッとふるへてからだ中から赤や青の火花をそこら中へぱちぱち散らしてはげしく五六遍まはってとまりました。なぜか口が横の方に引きつってゐて意地悪さうに見えます。
獅子が落ちついてうで組みをして云ひました。
「きさまはまだ悪いことをやめないな。この前首すぢの毛をみんな抜かれたのをもう忘れたのか。」
狐がガタガタ顫《ふる》へながら云ひました。
「だ、大王様。わ、わたくしは、い今はもうしゃう正直でございます。」歯がカチカチ云ふたびに青い火花はそこらへちらばりました。
「火花を出すな。銅臭くていかん。こら。偽《うそ》をつくなよ。今どこへ行くつもりだったのだ。」
狐は少し落ちつきました。
「マラソンの練習でございます。」
「ほんたうだらうな。鶏を盗みに行く所ではなからうな。」
「いえ。たし
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