まわって仕方なかったよ。」
「ははあ、何かこわいことがあると、ひとりでからだがふるえるからね。お前さんも、ことによったら、臆病《おくびょう》のためかも知れないよ。」
「そうだ。臆病のためだったかも知れないね。じっさい、あの時の、音や光は大へんだったからね。」
「そうだろう。やっぱり、臆病のためだろう。ハッハハハハッハ、ハハハハハ。」
 稜《かど》のある石は、一しょに大声でわらいました。その時、霧がはれましたので、角《かど》のある石は、空を向いて、てんでに勝手なことを考えはじめました。
 ベゴ石も、だまって、柏《かしわ》の葉のひらめきをながめました。
 それから何べんも、雪がふったり、草が生えたりしました。かしわは、何べんも古い葉を落して、新らしい葉をつけました。
 ある日、かしわが云いました。
「ベゴさん。僕とあなたが、お隣《とな》りになってから、もうずいぶん久しいもんですね。」
「ええ。そうです。あなたは、ずいぶん大きくなりましたね。」
「いいえ。しかし僕なんか、前はまるで小さくて、あなたのことを、黒い途方《とほう》もない山だと思っていたんです。」
「はあ、そうでしょうね。今はあなた
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