気のいい火山弾
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)座《すわ》っていました。

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|疋《ぴき》

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(例)[#ここから2字下げ]
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 ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座《すわ》っていました。
「ベゴ」と云《い》う名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜《かど》のあるあまり大きくない黒い石どもが、つけたのでした。ほかに、立派な、本とうの名前もあったのでしたが、「ベゴ」石もそれを知りませんでした。
 ベゴ石は、稜がなくて、丁度卵の両はじを、少しひらたくのばしたような形でした。そして、ななめに二本の石の帯のようなものが、からだを巻いてありました。非常に、たちがよくて、一ぺんも怒《おこ》ったことがないのでした。
 それですから、深い霧《きり》がこめて、空も山も向うの野原もなんにも見えず退くつな日は、稜のある石どもは、みんな、ベゴ石をからかって遊びました。
「ベゴさん。今日《こんち》は。
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