て、枝をピクピクさせました。
 はじめは仲間の石どもだけでしたがあんまりベゴ石が気がいゝのでだんだんみんな馬鹿にし出しました。をみなへしが、斯《か》う云ひました。
「ベゴさん。僕は、たうとう、黄金《きん》のかんむりをかぶりましたよ。」
「おめでたう。をみなへしさん。」
「あなたは、いつ、かぶるのですか。」
「さあ、まあ私はかぶりませんね。」
「さうですか。お気の毒ですね。しかし。いや。はてな。あなたも、もうかんむりをかぶってるではありませんか。」
 をみなへしは、ベゴ石の上に、このごろ生えた小さな苔《こけ》を見て、云ひました。
 べゴ石は笑って、
「いやこれは苔ですよ。」
「さうですか。あんまり見ばえがしませんね。」
 それから十日ばかりたちました。をみなへしはびっくりしたやうに叫びました。
「べゴさん。たうとう、あなたも、かんむりをかぶりましたよ。つまり、あなたの上の苔がみな赤づきんをかぶりました。おめでたう。」
 べゴ石は、にが笑ひをしながら、なにげなく云ひました。
「ありがたう。しかしその赤頭巾《あかづきん》は、苔のかんむりでせう。私のではありません。私の冠は、今に野原いちめん、
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