銀色にやって来ます。」
 このことばが、もうをみなへしのきもを、つぶしてしまひました。
「それは雪でせう。大へんだ。大へんだ。」
 べゴ石も気がついて、おどろいてをみなへしをなぐさめました。
「をみなへしさん。ごめんなさい。雪が来て、あなたはいやでせうが、毎年のことで仕方もないのです。その代り、来年雪が消えたら、きっとすぐ又いらっしゃい。」
 をみなへしは、もう、へんじをしませんでした。又その次の日のことでした。蚊が一|疋《ぴき》くうんくうんとうなってやって来ました。
「どうも、この野原には、むだなものが沢山あっていかんな。たとへば、このベゴ石のやうなものだ。べゴ石のごときは、何のやくにもたゝない。むぐらのやうにつちをほって、空気をしんせんにするといふこともしない。草っぱのやうに露をきらめかして、われわれの目の病をなほすといふこともない。くううん。くううん。」と云ひながら、又向ふへ飛んで行きました。
 ベゴ石の上の苔は、前からいろいろ悪口を聞いてゐましたが、ことに、今の蚊の悪口を聞いて、いよいよべゴ石を、馬鹿にしはじめました。
 そして、赤い小さな頭巾をかぶったまゝ、踊りはじめました。
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