へるからね。お前さんも、ことによったら、臆病《おくびゃう》のためかも知れないよ。」
「さうだ。臆病のためだったかも知れないね。じっさい、あの時の、音や光は大へんだったからね。」
「さうだらう。やっぱり、臆病のためだらう。ハッハハハハッハ、ハハハハハ。」
稜《かど》のある石は、一しょに大声でわらひました。その時、霧がはれましたので、角《かど》のある石は、空を向いて、てんでに勝手なことを考へはじめました。
ベゴ石も、だまって、柏《かしは》の葉のひらめきをながめました。
それから何べんも、雪がふったり、草が生えたりしました。かしはは、何べんも古い葉を落して、新らしい葉をつけました。
ある日、かしはが云ひました。
「ベゴさん。僕とあなたが、お隣りになってから、もうずゐぶん久しいもんですね。」
「えゝ。さうです。あなたは、ずゐぶん大きくなりましたね。」
「いゝえ。しかし僕なんか、前はまるで小さくて、あなたのことを、黒い途方もない山だと思ってゐたんです。」
「はあ、さうでせうね。今はあなたは、もう僕の五倍もせいが高いでせう。」
「さう云へばまあさうですね。」
かしはは、すっかり、うぬぼれ
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング