ルラだつてあんな女の子とおもしろさうに話してゐるし、僕はほんたうにつらいなあ。)
ジヨバンニの眼はまた泪でいつぱいになり、天の川もまるで遠くへ行つたやうにぼんやり白く見えるだけでした。
そのとき汽車はだんだん川からはなれて崖の上を通るやうになりました。向う岸もまた黒いいろの崖が川の岸を下流に下るにしたがつて、だんだん高くなつて行くのでした。そしてちらつと大きなたうもろこしの木を見ました。その葉はぐるぐるに縮れ、葉の下にはもう美しい緑いろの大きな苞が赤い毛を吐いて、眞珠のやうな實もちらつと見えたのでした。
それはだんだん數を増して來て、もういまは列のやうに崖と線路との間にならび、思はずジヨバンニが窓から顏を引つ込めて向う側の窓を見ましたときは、美しいそらの野原、地平線のはてまで、その大きなたうもろこしの木がほとんどいちめんに植ゑられてさやさや風にゆらぎ、その立派なちぢれた葉のさきからは、まるでひるの間にいつぱい日光を吸つた金剛石のやうに、露がいつぱいについて赤や緑やきらきら燃えて光つてゐるのでした。
カムパネルラが、
「あれたうもろこしだねえ。」とジヨバンニに云ひましたけれども、
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