つと胸が冷たくなつたやうに思ひました。そしていきなり近くの人たちへ、
「何かあつたんですか。」と叫ぶやうにききました。
「こどもが水へ落ちたんですよ。」一人が云ひますと、その人たちは一齊にジヨバンニの方を見ました。
 ジヨバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました。
 橋の上は人でいつぱいで河が見えませんでした。
 白い服を着た巡査も出てゐました。
 ジヨバンニは橋の袂から飛ぶやうに下の廣い河原へおりました。
 その河原の水際に沿つてたくさんのあかりがせはしくのぼつたり下つたりしてゐました。向う岸の暗いどてにも灯が七つ八つうごいてゐました。そのまん中を、もう烏瓜のあかりもない川が、わづかに音を立てて灰いろに、しづかに流れてゐたのでした。
 河原のいちばん下流の方へ、洲のやうになつて出たところに人の集りがくつきり、まつ黒に立つてゐました。
 ジヨバンニはどんどんそつちへ走りました。するとジヨバンニはいきなりさつきカムパネルラといつしよだつたマルソに會ひました。マルソがジヨバンニに走り寄つて云ひました。
「ジヨバンニ、カムパネルラが川へはいつたよ。」
「どうして、いつ。」
「ザネリがね。舟の上
前へ 次へ
全90ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング