には、まことのみんなの幸のために私のからだをおつかひ下さい。つて云つたといふの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだが、まつ赤なうつくしい火になつて燃えて、よるのやみを照らしてゐるのを見たつて。
いつまでも燃えてるつてお父さん、仰つしやつたわ。ほんたうにあの火、それだわ。」
「さうだ。見たまへ。そこらの三角標はちやうどさそりの形にならんでゐるよ。」
ジヨバンニはまつたくその大きな火の向うに、三つの三角標が、さそりの腕のやうに、こつちに五つの三角標がさそりの尾やかぎのやうにならんでゐるのを見ました。そしてほんたうにそのまつ赤なうつくしいさそりの火は音なくあかるくあかるく燃えたのです。
その火がだんだんうしろの方になるにつれて、みんなは何とも云へずにぎやかなさまざまの樂の音や草花の匂のやうなもの、口笛や人々のざわざわ云ふ聲やらを聞きました。
それはもうぢきちかくに町か何かがあつて、そこにお祭でもあるといふやうな氣がするのでした。
「ケンタウルス、露をふらせ。」いきなりいままで睡つていたジヨバンニのとなりの男の子が、向うの窓を見ながら叫んでゐました。
ああそこにはクリスマストリイのやうにまつ青な唐檜かもみの木がたつて、その中にはたくさんのたくさんの豆電燈がまるで千の螢でも集つたやうについてゐました。
「ああ、さうだ。今夜ケンタウル祭だねえ。」
「ああ、ここはケンタウルの村だよ。」カムパネルラがすぐ云ひました。
……(次の原稿一枚位なし)……
「ボール投げなら僕決してはづさない。」
男の子が大威張で云ひ出しました。
「もうぢきサウザンクロスです。おりる支度をして下さい。」青年がみんなに云ひました。
「僕、も少し汽車へ乘つてるんだよ。」男の子が云ひました。
カムパネルラのとなりの女の子はそはそは立つて支度をはじめました。けれどもやつぱりジヨバンニたちとわかれたくないやうなやうすでした。
「ここでおりなけあいけないのです。」青年はきちつと口を結んで男の子を見おろしながら云ひました。
「厭だい。僕、もう少し汽車へ乘つてから行くんだい。」
ジヨバンニがこらへ兼ねて云ひました。
「僕たちと一緒に乘つて行かう。僕たちどこまでだつて行ける切符持つてるんだ。」
「だけどあたしたち、もうここで降りなけあいけないのよ、ここ天上へ行くとこなんだから。」女の子がさびしさうに云ひました
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